はじめに
エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川です。
中学生以降という青年期の脳の発達には、子どもとも大人とも異なる成長の過程が見られる期間であるとことが分かってきています。私たち大人はこのことを理解し、いたずらに大人の思い通りにしようとして、子どもたち自身が迷ったり考えたり、判断したりする機会を奪うことは、むしろ成長・発達にマイナスであることを知っておいた方が良さそうです。
青年期の子ども達は、周囲の状況を観察し、適応を試みながら自分はどのようにありたいかを意識し、自立しようとする中で、親や教育者などの大人との関わりを通して、目覚ましい成長や変化を遂げるのですが、このような時は心の健康問題が発生しやすい時期でもあると言えます。一番不安なのは子ども達自身なのです。
私の2023年~2025年の睡眠健康診断調査からも、中学生、高校生の時期の睡眠課題がメンタルヘルスに少なからず影響することが分かってきています。そこで思春期・青年期の子ども達に寄り添いながら、睡眠の重要性を科学的に理解してもらい、メンタルのレジリエンス(回復力、耐久力)を強化して、思春期にこそ大いに成長し、強くなってほしいと願っています。そんな中学生の睡眠の疑問への回答【後編】です。
生徒たちが抱く睡眠に対する疑問を通して、皆さんにとっても何か学びやプラスに繋がればと考えています。
「中学生の睡眠への疑問と答え」から学ぶ【前編】はこちら
中学校1年生の睡眠に関する質問への回答【後編】
Q15:⼗分な睡眠時間がとれなかった翌⽇は、たくさん寝てもよいのか、いつも通りに寝ればよいのか。
少し多めに寝ることは良いのですが、例えば30分早めに寝て、30分遅めに起きるというようにすると良いでしょう。就寝時刻も起床時刻もできれば大幅にずらさない方が体内時計が狂いにくくて良いと思います。とくに起床時刻を2時間以上遅くすることは避けてほしいです。大きなズレは日中の眠気を増大し、意欲を失わせます。
Q16:ベッドに⼊っても30分〜1時間寝られない。どうしたら寝つきが早くなるのか。また、その場合は眠くなるまで起きていてもよいのか。
前編の質問11(Q11)とほぼ同じなので、先月のコラムも読んで頂きたいと思います。
どうしても眠れない時は、眠くなるまで紙の本を読むとか、音楽を聴くなどで無理に布団に入らなくても良いでしょう。夜9時以降に眠くなったら最初の眠気で就寝することが良いのですが、そのタイミングを逃すと、眠れなくなりがちです。できるだけ、毎日同じ時刻にベッドに行くようにすると、次第に寝つきが良くなります。
Q17:先⽣は普段何時に寝て、何時に起きているのか。8時間寝る場合、21時〜5
時と22時〜6時のどちらがおすすめか。
私は、先にも書きましたが高齢者なので7時間位が適当で、11時頃から朝の6時頃まで眠るようにしています。
中学生が8時間眠るときには、21~5時、22~6時のどちらでも良いのですが、毎日同じルーティーンにすることが良いでしょう。早起きして勉強するもよし、通学時間がかかるようでしたら、より早寝早起きの方が余裕があって良いかもしれませんね。日の出時刻が異なる夏と冬でも変わりそうですね。
Q18:睡眠時間が短すぎる(2〜4時間)と⼈間は最終的にどうなるのか。「ショートスリーパー」は本当に健康なのか。
私は若い時に大学生52名を募集して断眠実験をしたことがあります。一般の人は2~4時間睡眠では、十分に日々の活動の疲労や老廃物を消去するための睡眠時間が足りないので、病気に罹りやすくなり、結果寿命を縮めることに繋がりやすいと言えます。脳へのダメージも大きいので、日常生活に様々な問題が生じ、最終的には認知機能も落ちやすいことが分かっています。
「ショートスリーパー」は、500人から700人に一人くらいの確率でいるらしいとは言われていますが、かなり遺伝的な要素があり、そのような家系の方にはとくに健康の問題は確認されず、日々の生活でも昼間に眠気もなく元気だということです。
しかし、自分で「ショートスリーパー」だという人の多くは、睡眠時間が取れない言い訳で、昼間にしょっちゅう居眠りしたり、ミスや事故を起こす人が多いようです。
ものすごく頭(脳)を使う人(例えばアインシュタイン)は、ロングスリーパーだったとも言われています。頭を使うにも相当なエネルギーが消費されて、回復にも睡眠が大切なんですね。
Q19:睡眠は時間が⼤切と聞いたが、時刻も⼤切か。例えば、19時〜3時まで寝た場合と22時〜6時まで寝た場合とでは違いがあるのか。
睡眠は時間、質(深さ)、時間帯(睡眠リズム)が重要です。過去の研究では、同じ8時間でも10時~6時が最も効率が良いという結果も出ていますが、現代では、様々な職業があり、睡眠がとれる時間帯が異なるので、早朝から働く方は19時~3時、一般勤務や学生は22時~6時、交代制勤務の方は色々な時間帯に眠ることになっていると思いますので、職業に合わせていることが多いでしょうか。しかし、人間はもともと夜行性ではなく昼行性なので、寝やすい時間帯となると、成人で22時~6時で、前後±1時間位の時間帯が先に解説したノンレム睡眠の深い眠りも、朝方に多いレム睡眠もどちらも確保して、身体にも脳にも良い眠りになりやすいと考えられます。
Q20:ベッドに⾏ってすぐに眠るためには、どうすればよいか。
寝つきを良くしたいという願望は多く、前編の質問11と後編の質問16でも書きましたが、寝つきを良くするためには、その日1日の過ごし方が大きく影響します。しっかり運動したか、朝に何を食べたか、寝る前にドカ食いしていないか、こころは落ち着いているか、寝室は暗くて静かで温湿度は適切か、など多くのことが影響するので、自分の場合何が寝つきを妨げているかを見つけて一つ改善すると寝つきが良くなると思います。
Q21:寝るときは、どんな姿勢で寝たらよいか。
健康な人は、寝ている間に夏だと20回前後、冬でも10回前後寝返りを打ちますので、最初の姿勢は上向き(仰臥)でも、横向き(横臥)でも良いでしょう。無意識に右下、左下、上向きを数回繰り返して、朝を迎えるので、自分の心地よい体勢からスタートしてください。
うつ伏せや、ひざを抱えて縮こまる姿勢は、胸を圧迫して呼吸がしづらいので、できれば避けた方が良いでしょう。のびのび大の字で寝るのは良いと思います。
Q22:寝室で加湿器を使っているが、湿度は⾼いのと低いのとでは、どちらが良いか。
寝室は乾燥すると、のどが痛くなったり、口が乾いたりするので、適切な湿度はオールシーズン50±5%と言われています。湿度が高すぎるとジメジメして睡眠を妨げやすいです。湿度が高い日が続いたら、布団も乾燥機などで乾かしましょう。部屋に温湿度計はあった方が良いでしょう。次第に自分の寝やすい温湿度が分かってきます。
Q23:寝るときは、どれくらいの明るさで寝た⽅がよいか。
明るいと睡眠物質で免疫物質でもあるメラトニンが出なくなるので、30Lx(ルクス)以下にしてください。部屋の中の物が薄ぼんやりと見分けられるくらいが目安です。出来れば直接目に入らないように、コンセントなどに設置する足元灯が良いでしょう。災害時の誘導灯にもなります。
Q24:寝るときに適した環境は何か。「暗い・30℃以下」などは教えてもらったが、それ以外も教えてほしい。
温湿度、明るさ、騒音が睡眠に影響する3大要因です。夏は26℃以下、冬は18℃以上、湿度は年中50±5%程度、明るさ30Lx以下、騒音は45デシベル(図書館内位)以下が良いと分かっています。後は寝具の中の環境も大切です。時々は寝室の空気を入れ替え、布団を乾燥し、清潔にしましょう。自分好みの感触のシーツや布団カバーを見つけるのも良いかもしれません。
Q25:眠る前に、どれくらい本を読めばよいか。
リラックスするために紙の本を読めばよいのですが、サスペンスなどのように先が気になる本は眠れなくなる可能性があります。10分ほど読んで眠くなりそうな、穏やかなエッセイ、風景写真、画集、詩集などが良いかもしれません。
Q26:休⽇にたくさん寝て平⽇は少しだけ寝ることが体に悪いのはなぜか。どのくらいの差までなら良いのか。
脳の奥に、視交叉上核という私たちにとっての生体リズムを司る親時計のような機能を持っているところがあります。そこは起きる時刻、寝る時刻をタイマーのようにしっかり記録しているので、毎日バラバラの睡眠をとると時計の機能が壊れて、眠りたいときに眠れない、起きたいときに起きれないということになってしまいます。
本当は、毎日同じ時刻に就寝/起床が良いのですが、「子ども睡眠健康診断(東京大学/2023年)」では、就寝も起床も2時間以上ずれると「悪い睡眠」と評価されます。どちらかだけ2時間ズレるのは次に悪い睡眠、どちらも2時間以上ずれないのが良い睡眠と評価されます。大目に見ても本当はズレを1時間以内にしてほしいですね。
Q27:寝つくのに1時間ほどかかるが、ピアノやオルゴールの⾳楽を流しながら寝ると15分ほどで眠れる。これは良いことか、やめた⽅がよいことか。
音楽を聴きながら眠ることは良いと思います。ただ、ずっと音楽を流し続けると鼓膜が振動し続けるので、オフタイマーなどで、自然に音が止まるようにして寝ると良いと思います。
Q28:寝ている間の⾳楽は⿎膜に悪影響を及ぼすと⾔われたが、睡眠の質を⾼めるためのASMRもあまりよくないのか。
寝つきを促すための20~30分は良いのですが、長時間は鼓膜を振動させるので、良くないでしょう。質問27と同様で、オフタイマーなどを使って、自然に音が止まるようにして寝ましょう。
Q29:起きる時間と寝る時間が平⽇と休⽇でどのくらい違うと良くないのかが気になった。
質問26にも書きましたが、できるならズレは30~60分以内にしてほしいです。就寝も起床も2時間以上ずれると、睡眠も体調もとても悪くなりやすいです。
Q30:「少しずつ早く寝ていくと朝に⾃分から起きられる」という話から、急に早く寝るのはだめなのかが気になった。
私たちの身体には時計機能があり、急に1時間、2時間早く寝る習慣にはなりにくくなっています。15分か30分くらいずつ早寝を1週間続けると、1か月で1時間から2時間早寝ができるようになります。夏休みに夜更かしを続けると、夏休み明け学校に行くために無理やり早起きをすると、生体リズムが狂っているので、睡眠不足、体調不良になり易いです。夏休み中も生体リズムを崩さないか、夜更かし気味になっていたら、早目に習慣を見直してほしいです。
Q31:睡眠の質はどのようにすれば改善できるのかを知りたい。
このQ&A全体を読んで頂いて、運動、食事、生活リズム、睡眠環境などで自分の課題だと思うものを一つでも良いので、改善してみてくださると、今より良い睡眠になり、健康状態も改善できる手ごたえを感じることができると思います。
Q32:消化器官や脳のほかに、どのような器官の体内時計があるのかを知りたい。
私たちの身体のすべての細胞に時計遺伝子がありますので、全ての器官と言っても良いでしょう。先にも書きましたが、親時計は脳の視交叉上核にあり、オーケストラに例えると指揮者です。全身の器官は、各パートメンバーとして指揮者に合わせられると、スムースに元気に活動できます。
Q33:昼寝にはどのような効果があるのかが気になった(⾃分でも調べてみたい)。
睡眠不足の際に、昼間のパフォーマンスを上げるために、20分前後の昼寝を取ると、脳がリフレッシュします。30分以上眠りすぎると深い眠りになり、睡眠慣性(眠気が続いてボーっとする)が残って、勉強や仕事の効率が低下しやすいことが分かっています。横にならず、座ったままの姿勢などで仮眠をとると目覚めやすいです。ぜひ、ご自身でも調べてみてください。
Q34:10時間睡眠をとっているのに⾝⻑が伸びないのはなぜか
中学1年生でしたら、まだまだこれからが成長期です。睡眠だけでなくしっかり食事から栄養も取り、運動もして、さらに勉強もしてください。身長も成績も運動能力も向上しますよ。
終わりに
後編として、質問に対する回答のうち、残りの半分をご紹介しました。いかがでしたか。大人の皆さんにも言えることがほとんどですので、子どもたちといっしょに睡眠に関する正しい理解を深めていっていただければと思います。
中学生の皆さんが心も身体も脳も健やかに成長することを願っています。
「中学生の睡眠への疑問と答え」から学ぶ【前編】はこちら
今日から実践できる睡眠改善方法
睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。 昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。
睡眠と脳を育てるボードゲーム
『作って遊ぶ、睡眠と脳を育てるボードゲーム~脳とすいみんはともだち~』は、家族や友達と楽しく遊びながら日ごとの生活を振り返ることができる、睡眠教育のためのボードゲームです。睡眠習慣を整えると脳が元気になって健やかに成長し、質の高い生活ができることを知ってほしいと思っています。
はさみやのりを使って作って遊ぶ体験
SNSの年齢制限を検討するほど、近年のデジタル化の進展が凄まじい中で、子どもたちの脳が過労状態やインターネット中毒状態になることで、発達が遅れてしまうことも懸念しています。
日常生活の中で身体や手を使うことの楽しさを感じてもらいたいと思い、「作って遊ぶ」という要素を取り入れました。ゲームに使用するサイコロやコマ、シートなどをはさみやのりを使って、親子、兄弟、友達と作る喜びを実感してもらい、楽しく遊んでもらいたいと願っています。
脳の発達と五感と感情
実は人間の脳の発達は、五感の感覚や、感情を伴う実際の体験や学習を通して神経細胞の軸策が太くなり重量が増すことで促されていきます。特に皮膚と脳は密接な関係があるのは、受精卵が細胞分裂を繰り返すなかで、同じ外胚葉というところから脳と皮膚ができるからなのです。だから、皮膚に加えられる様々な刺激や感触が脳の感覚野に伝えられるのです。手や足、顔の感覚は脳の感覚野の広い領域と関わっていて、日常生活で喜怒哀楽などの感情を伴う多くの体験を通して、脳の神経伝達はさらに活性化し、脳が発達して、精神が安定することに繋がることが分かっています。
アナログなゲームが心を豊かにする
『作って遊ぶ、睡眠と脳を育てるボードゲーム~脳とすいみんはともだち~』は、手を動かし、世代を問わずみんなで喜怒哀楽を共にしながら楽しめる「すごろくゲーム」です。デジタルゲームは脳を疲れさせるばかりですが、アナログなゲームは脳を活性化し、心を安定にし、豊かにしてくれます。ご家族や友だちと遊びながら、私たちの身体や心のコントローラーである脳を健やかに育てるためには睡眠が重要な役割を果たすことを楽しく学んでいただければと思います。
すいみん・かるた
以前に作成した「すいみん・かるた」でも45組の絵札・読み札でも睡眠の重要性を科学的に紹介、解説させて頂いています。お子様との学びの場でぜひご活用ください。大人にとっても学びのある内容になっています。

睡眠環境と習慣を学びたい方におすすめ
【PR】睡眠環境と睡眠習慣を体系的に学びたい方、知識はあってもなかなか実践できないという方には、エムール睡眠・生活研究所(所長:神川康子)と通信教育のユーキャンが共同開発した『睡眠セルフマネジメント講座』がおすすめです。テキストで睡眠のしくみや、睡眠の質を高める実践法などの知識を身につけながら、副教材やアプリで睡眠のくせを見える化!2つの学習を進めていくことで資格取得と快眠習慣の定着、両方を目指せます。
いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。
エムール体験ショールームについて
マットレスやベッド、折りたたみベッド、高座椅子・リクライニングチェア等の製品を体験できる人体系家具のショールームです。予約制で最大45分間、専門スタッフがお客様の心地よい体験をサポートしてくれます。私も購入を検討している折りたたみベッドは驚くほど快適で「これなら毎日畳める!」と感動しました。空間でお悩みの方はぜひ一度体験してみてください。
