はじめに
エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川です。
つい先日までかき氷が欲しい暑さだったのに、急に温かいお汁粉が食べたい季節になってきました。10月に台風?と思う激しい気候変動の中でも、確実に夏が終わり季節は秋、冬へと進んでいます。どのような環境のなかでもぐっすり、すっきり眠れた日は仕事も生活も人間関係もうまくいきそうです。
エムールでは、かねてよりHP上で、「睡眠の質を改善するための生活習慣改善の取組アンケート」を実施してきましたが、今年7月の日本睡眠学会で中間報告をしましたので、概要をお知らせしたいと思います。
当初の目的は、私が暮らす富山県の睡眠に関する課題を明らかにすることでした。富山県は、睡眠によって疲労が十分に回復しない「睡眠休養不良者」の割合が50%近くに達し、睡眠満足度が10年連続で全国最下位という状況にあります。そこで、県民の生活習慣に何らかの特徴や課題があるのではないかと考え、調査を行いました。
しかし、今回のWeb調査では、回答者386名のうち68%が富山県在住者で、県外在住者は32%という構成でした。そのため、他県との比較から富山県民に特徴的な生活習慣を明確にするには、十分なデータとはいえませんでした。
そこで今回は、県民と県外在住者の比較にとどまらず、全386件の回答を分析対象とし、生活習慣に見られる「性差」「年代差」「職業差」「季節差」「回答年による違い」に着目しました。また、分析を進めるなかで、富山県では他の地域と比べて、実践が難しいと考えられる生活習慣も少し見えてきました。
今回は、こうした調査結果から見えてきた傾向や気づきを紹介したいと思います。
調査概要
今回のWeb調査では、皆様の日常生活における15項目の生活習慣の実践状況を伺いました。これらは、いずれも夜間の睡眠に影響があることが検証されている項目です。具体的には、以下の15項目です。
今回は、2023年6月から2025年12月までに得られた386件の回答を分析しました。
「夕食は就寝2時間前まで」
「入浴は湯船につかって20分程度」
「お酒は寝る3時間前までに切り上げる」
「寝床で5分以上スマホを見ない」
「就寝前に水か白湯をコップ1杯」
「夜は12時まで(今日中)に就寝」
「毎日同じ時刻に起きる」
「起床時にカーテンを開ける」
「朝食をしっかりとる」
「一日およそ6,000歩以上歩く」
「毎日3人以上の人と30分以上会話する」
「ひとりでリラックスする時間を30分以上確保」
「食事はしっかりと噛んで食べる」
「昼食後15時前までに20分以内の仮眠」
「2週間に1回以上布団を干す」
調査結果
① 性差
「飲酒を就寝3時間前までに切り上げる」ことが困難としたのは、男性29.5%、女性12.2%でした。「朝、カーテンを開ける」を実践しているのは、男性36.6%、女性42.6%でした。また、「自由時間を30分以上確保する」ことが困難なのは、男性7.1%、女性16.3%、「昼食後の仮眠が困難」なのは、男性23.6%、女性76%でした。
女性には、自由時間や仮眠時間の確保が難しいことが分かります。
② 年代差
「湯船入浴」は30代が最も困難としており(26.9%)、40代、50代では27~28%が実践しています。
「就寝前のスマホ制限」は50代が最も実践しており(32.9%)、40代(28.2%)、30代(23.6%)、20代(19.1%)の順に、スマホの使用制限が困難となっています。
「朝食をしっかりとる」ことについては、20代の33.3%が突出して困難と回答しており、40代、50代では3割前後が実践しています。
昼食後の仮眠については、50代の38.1%が実践している一方、40代では30.6%が困難としており、最も仮眠ができていない世代でした。
その他にも、12時前の就寝、規則的な起床、咀嚼など、若い世代ほど実践が困難な項目が見られました。年代差は、今回の分析において最も多くの項目に見られました。
③ 職業差
「12時前の就寝」は学生が最も困難としており(66.7%)、反対に、金融・保険業の実践率が最も高く、早寝しやすい職種と言えそうです。
「規則的な起床」も全く同様の傾向が見られ、学生は起床時刻が不規則になりやすく、金融・保険業では規則的な睡眠が取りやすいことが分かりました。
「朝食をしっかり食べる」ことについても、学生以外の職業では実践率が高く、特に高かったのは自由業(75%)と金融・保険業(66.7%)でした。
「昼食後の仮眠」は公務員が最も困難としており(36%)、医療・福祉業では33.3%が実践しており、最も実践率が高い職業でした。
「一日3人以上と30分以上会話する」ことについては、金融・保険業では66.7%、自由業では62.5%が実践していました。一方、運輸業では突出して困難とする割合が高く(66.7%)、輸送中の孤独感の解消も課題ではないかと実感しました。
④ 季節差
季節差は想像しやすいものですが、「定期的な布団干し」では、4~6月が最も実践されており(27.5%)、10~12月(51.8%)、1~3月(34.1%)は実践が困難となっていました。これは当然の結果とも思われますが、年間を通して見ると、意外にも布団干しが実践されていないことに課題を感じました。
「就寝前の水分摂取」は1~6月に多く、7~12月に少ないという結果で、意外性を感じました。夏季の睡眠不足や熱中症予防の観点からも、重要な課題だと感じています。
「規則的起床」は7~9月の日照時間が長い時期に実践率が下がる(33.3%)のは、早朝覚醒が増えるのか、夏季休暇などがあることによるのかは今後検証する必要がありそうです。
「規則的な起床」は、7~9月の日照時間が長い時期に実践率が下がり(33.3%)、10~12月(48.8%)と4~6月(47.5%)の春季・秋季には規則的起床は実践されやすいことが分かりました。
「会話量」は、猛暑の影響か、7~9月にやや低下し、1~6月に実践されやすい傾向が見られました。ただし、1~3月は二極化しており、会話が困難とする割合(23.5%)も、他の季節に比べて多くなっていました。
⑤ 回答年による違い
富山県では行政とともに睡眠改善に取り組んでいますが、年を追って改善傾向が見られる項目があるのかを確認しました。
その結果、「早めの夕食」「就寝前の水分摂取」「朝、カーテンを開ける」の3項目については、重要性への理解が進んだためか、困難とする割合が減り、「すぐに実践する」「すでに実践している」という回答が有意に増加しました。
⑥ 地域差
富山県の睡眠習慣改善のために、最も知りたかったのが地域差です。しかし、地域差が見られたのは「定期的な布団干し」と「就寝前の水分摂取」の2項目のみでした。
定期的な布団干しについては、富山県では48.1%が困難としており、富山県以外の25.6%と比べて、2倍近い割合となっていました。
「就寝前の水分摂取」は実践率に地域差があり、富山県は回答年で改善傾向も見られたものの、まだ18.2%で、県外の26.4%より低い結果でした。
こうした地域差を考慮し、まずは富山県内の皆様に向けて、これからの季節に次の2つを推奨したいと思います。
「布団乾燥機でも良いので、時々布団を干しましょう!」
「就寝前には、白湯などをコップ1杯飲みましょう!」
睡眠改善対策の実効性を高めるには
前述のように、富山県では2020年から睡眠改善に取り組んできました。「睡眠休養不良者」の割合の推移は、次のとおりです。
2014年(46.1%)
→ 2015年(46.3%)
→ 2016年(46.7%)
→ 2017年(50.2%)
→ 2018年(49.2%)
→ 2019年(49.0%)
→ 2020年(46.6%)
→ 2021年(46.2%)
→ 2022年(47.3%)
→ 2023年(48.1%)
→ 2024年(41.0%)
このように変化し、2024年には10年ぶりに初めて全国ワーストを脱出しました。まだ2024年の全国平均である40.3%よりも悪いものの、順位は32位まで上昇し、改善率(7.1ポイント減少)は日本一となりました。
こうした結果から、行政とともに推進してきた「ぐっすりキャンペーン」の取り組みには、多少なりとも成果があったと自負しています(毎年、キャンペーン参加者の6割以上が睡眠改善しました)。
一人ひとりが自身の心身の健康のために、睡眠を科学的に理解し、日々の暮らしの中で改善目標を一つでも掲げ、実践することから始める。そのことに大きな意義を感じています。
終わりに
今回の調査結果から、睡眠改善対策を講じる際には、性別、年代、職業、地域、季節も考慮し、改善経過を観ながら各自が出来そうなことから実践すると良いと思います。
ここまで見てきた睡眠改善習慣の違いを参考にして、読んでくださる皆様の年代やご職業、地域や季節についても考慮に入れて、無理の無い睡眠改善にチャレンジしてくださる一助になればと期待しています。
今後はさらにデータを集積して、睡眠改善に寄与できる結果をお伝えしていきたいと考えています。
最後に、富山県が「睡眠休養不良者」ワーストが10年続いた一方で、2018年からほぼベスト1をキープしている島根県の皆さまのご回答、さらには日本全国の皆さまの回答をお待ちしております。
アンケートの回答はこちら
睡眠の質を改善するための生活習慣改善の取り組みアンケート
今日から実践できる睡眠改善方法
睡眠と脳を育てるボードゲーム
『作って遊ぶ、睡眠と脳を育てるボードゲーム~脳とすいみんはともだち~』は、家族や友達と楽しく遊びながら日ごとの生活を振り返ることができる、睡眠教育のためのボードゲームです。睡眠習慣を整えると脳が元気になって健やかに成長し、質の高い生活ができることを知ってほしいと思っています。
はさみやのりを使って作って遊ぶ体験
SNSの年齢制限を検討するほど、近年のデジタル化の進展が凄まじい中で、子どもたちの脳が過労状態やインターネット中毒状態になることで、発達が遅れてしまうことも懸念しています。
日常生活の中で身体や手を使うことの楽しさを感じてもらいたいと思い、「作って遊ぶ」という要素を取り入れました。ゲームに使用するサイコロやコマ、シートなどをはさみやのりを使って、親子、兄弟、友達と作る喜びを実感してもらい、楽しく遊んでもらいたいと願っています。
脳の発達と五感と感情
実は人間の脳の発達は、五感の感覚や、感情を伴う実際の体験や学習を通して神経細胞の軸策が太くなり重量が増すことで促されていきます。特に皮膚と脳は密接な関係があるのは、受精卵が細胞分裂を繰り返すなかで、同じ外胚葉というところから脳と皮膚ができるからなのです。だから、皮膚に加えられる様々な刺激や感触が脳の感覚野に伝えられるのです。手や足、顔の感覚は脳の感覚野の広い領域と関わっていて、日常生活で喜怒哀楽などの感情を伴う多くの体験を通して、脳の神経伝達はさらに活性化し、脳が発達して、精神が安定することに繋がることが分かっています。
アナログなゲームが心を豊かにする
『作って遊ぶ、睡眠と脳を育てるボードゲーム~脳とすいみんはともだち~』は、手を動かし、世代を問わずみんなで喜怒哀楽を共にしながら楽しめる「すごろくゲーム」です。デジタルゲームは脳を疲れさせるばかりですが、アナログなゲームは脳を活性化し、心を安定にし、豊かにしてくれます。ご家族や友だちと遊びながら、私たちの身体や心のコントローラーである脳を健やかに育てるためには睡眠が重要な役割を果たすことを楽しく学んでいただければと思います。
すいみん・かるた
以前に作成した「すいみん・かるた」でも45組の絵札・読み札でも睡眠の重要性を科学的に紹介、解説させて頂いています。お子様との学びの場でぜひご活用ください。大人にとっても学びのある内容になっています。

睡眠環境と習慣を学びたい方におすすめ
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いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。
エムール体験ショールームについて
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