専門家に聞く”睡眠と心の健康”【快眠コラム】

2025年2月26日

神川 康子

断眠実験から言えるひとつの事実

エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。

今から35年ほど前だから許された、ヒトの「断眠実験」の結果が、現在でも睡眠研究を続けている原動力になっています。
先日、講演先の聴衆の中から「私、断眠実験に参加したあの時の学生です」という、50代半ばの方に声をかけてもらいました。大変な実験だったので、懐かしくもあり、よく覚えていますと言って頂きました。

当時、52人の学生が被験者募集に応募してくれて、うち48名の学生が睡眠時間条件、0時間/2時間/4時間/6時間/8時間/自由睡眠時間(平均7時間)の6条件をクリアしてくれました。

実験の結果は、(私にとっては)予測以上に綺麗なデータとなりました。

起きている時の3時間ごとの脳波測定による覚醒度も、主観評価による頭のすっきりさ、日中の眠気、肉体的疲労感、精神的疲労感、体調・気分、自覚症状訴え数の全てにおいて、睡眠時間が(0~8時間で)長いほど良い結果となり、0時間睡眠(徹夜)と2時間睡眠では、とても正常な状態で日中の生活ができないという結果になりました。

また、脳波上、日中の覚醒度が元の状態に戻るために平均3日間かかりました。これは、徹夜をして仕事や勉強、ゲームなどをした成果のコスパは非常に悪いという事になります。

たった一晩の徹夜でも、その後の約3日間ボーっとしていることになるのですから、「睡眠と日中パフォーマンスの関係性」を強く実感するひとつの事実でした。

睡眠不足と心の健康への影響

海外(アメリカ)の徹夜実験でも、26人の半数(13人)に徹夜をさせ、徹夜をしなかったグループと単語の記憶力を比較したところ、徹夜した方に40%の記憶力低下が見られたうえ、肯定的な単語と中立的な単語の記憶が50%低下し、否定的な意味の単語の方を2倍以上強く記憶していたという実験があります。

言い換えれば、睡眠不足により気分が落ち込むような記憶が強化される可能性を示唆しています。他にも睡眠不足がうつ状態や精神疾患の要因になる可能性を示す研究も多く、良い睡眠を確保することが心の健康にも重要であることが分ります。

現在はこのような健康への影響力の大きい実験は承認されにくくなっていますが、社会実験と言って、日常的に「睡眠が良好なグループ」と「睡眠不足のグループ」を分けて、調査・実験を行えば、様々な違いが見えてきます。とくに最近の研究では、病気に罹り易くなるだけでなく、うつ病との関係性も明らかになってきており、睡眠不足を根性論で乗り切ろうとすることは、極めて非科学的な事になります。

リズムを維持して良いスタートを

今はちょうど、大学受験の終盤となっていますが、受験や試験の追い込みなどで徹夜や睡眠不足を続けた学生が、急に意欲を失くして、うつ状態になってしまう例もあります。周囲のご家族や先生、友人が気付いて、睡眠・覚醒リズムや生活習慣を整えると俄かに改善できるので、生体リズム(バイオリズム)の維持は侮れません。

また、進路が決まった後の健康な生活や意欲を支え、社会生活にスムースに適応するためにも「社会リズム療法」は重要だと考えられます。新年度からの新しい生活に向けて、規則正しい生活を意識できると、気分の乱高下を少なくし、楽しく新生活や学校生活に順応し、ステップアップして行くことが出来るのです。
「新生活のスタートを順調に切るために」はこちらのコラムもご参考にしていただけましたら幸いです。
新しい生活の始まりは、心身へのストレスが大きくなりがちです。基盤となる毎日の生活のリズムを安定させることで、変化にも柔軟にこたえられる準備をして、素敵なニューライフをお過ごしください。

今日から実践できる睡眠改善方法

睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。
昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。

 

睡眠の質を改善するための生活習慣改善の取り組みアンケート

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いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。

執筆者/監修
Author

神川 康子

富山大学 名誉教授 博士(学術) 。一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。40年以上に渡り、睡眠研究を行う。年間50回を超える講演を通して、睡眠教育の啓発に尽力。睡眠環境学入門ほか寄稿多数。