専門家に聞く”感染症と睡眠”【快眠コラム】
2025年1月27日
神川 康子
睡眠と免疫力
エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。
良質な睡眠には免疫力を高めてくれる力があることは、多くの方々が知るところです。しかし、ちょっとくらい大丈夫だろうと睡眠を侮った時に風邪などがすきをついてくるという生活体験もあり、「睡眠大事!」と薄々感じている方も多いのではないでしょうか。
調査研究によると睡眠時間が5~6時間の人の風邪のひきやすさは4.24倍、5時間未満になると4.5倍になるというデータが有ります。また、実際に鼻かぜを引き起こすライノウイルスの付着実験を行ったところ、睡眠の質が悪いグループでは2人に1人が発症し、良好なグループでは7人に1人発症の割合だったそうです。
睡眠負債と風邪
私も現職時代は講義の準備や夜遅くまでの研究作業で睡眠負債(眠りの借金=睡眠不足の蓄積)や疲れが溜まってくる木曜日に限って大勢の講義後(風邪をひいている学生が多い時期)に風邪の症状が出て、金曜日はなんとか頑張って土日は静養というパターンが結構あり、休みを損した気分で過ごしたこと思い出します。
実はこのお正月にも久々に同様の事があり、これまでに罹患した複数回のコロナやインフルエンザ経験から、数日経てば治るだろうと軽く考えていたら、体験したことのない炎症の拡大になりました。考えてみればわかる事なのですが、喉・眼・鼻・耳は全部つながっているので、最初の喉の炎症がまず結膜炎に飛び火し、その後両耳の中耳にも拡大し、1週間ほとんど音が聞こえないという不安と孤独と恐怖を初めて体験しました。
きっかけは自覚のある1週間ほどの睡眠不足でした。規則正しい生活をしていればここまで悪化はしなかったところに、年齢的な免疫力低下も重なり、これほど睡眠の重要性と、自らを「紺屋の白袴」と情けなく思ったことはありません。「後悔先に立たず」です。ちゃんと寝ておけば良かった!と。講演では「睡眠・覚醒リズムを乱すのはいとも簡単、健康を害してから気が付いて元に戻すのは至難の業」と言っていることの実体験でした。
睡眠と炎症
以前に「女性の生理周期と睡眠」についてコラムを執筆しましたが、妊婦さんが長期間寝不足になると、胎盤を通して胎児の脳に炎症物質が行くという報告もあり、睡眠と炎症は関連していることが分っています。アトピー性皮膚炎も良質な睡眠で症状が抑制され、睡眠負債で症状が悪化することも検証されています。
そこで「炎症」について少し調べてみたところ、炎症には2面性があり、身体のどこかにトラブルが発生すると炎症が起こり、そのトラブルと戦い勝利するために炎症が役割を果たしてくれ、その後免疫機能が強化されるという面もあるようです。感染症にかかって発熱し、ウイルスなどと戦い、やがて回復するという過程をコロナ禍下では多くの方々が体験しました。しかし度を越して、最初の感染症や怪我による炎症などが治まってきても慢性的に炎症が続いてしまうと、そこから様々な生活習慣病や、炎症が制御できない自己免疫疾患に繋がる場合もあるようです。
健康の基盤は習慣と環境
このような心身の健康や健康寿命に関わる炎症とうまく関わっていくためにも、日常生活の中での睡眠、食事、運動などの生活習慣、そして日々のより良い暮らしを支える生活環境を見直し、改善することが必要かもしれません。COVID-19後遺症の研究でも回復の速さや症状の継続には個人差が大きく、それは人それぞれの「抗炎症と炎症収束」のプロセスの違いで、高齢になるほど収束できなかったり、多くの時間がかかったりするので重症化しやすいそうです。
人生でインフルエンザにはたぶん4~5回罹患している私が今回炎症が拡大し、後遺症が長引いた要因には加齢と生活習慣に課題があることが自覚できたので、今年はまず運動習慣から見直し、食事にも配慮し、睡眠教育者として、人に言うばかりでなく、自分の睡眠も大切にしていこうと決意した年頭です。皆様も、健康のための基盤とも言える生活習慣や生活環境を整えて、睡眠を大切にしていってください。
今日から実践できる睡眠改善方法
睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。
昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。
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すいみん・かるた
家族や職場で睡眠を改善したい方のために「すいみん・かるた」(dreams come true=良い眠りは人生の夢を実現する)を作成しています。お正月はもちろん、お子様との学びの場でぜひご活用ください。大人にとっても学びのある内容になっています。
睡眠環境と習慣を学びたい方におすすめ
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いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。