専門家に聞く”1年の疲れを大掃除!睡眠休養感をアップ!”【快眠コラム】

2024年12月24日

神川 康子

疲れやストレスの効果的なリフレッシュ方法とは

エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。

今年はどんな一年だったでしょうか。地震や自然災害に振り回された一年でもあり、夏の猛暑も長く続き、体力を消耗された方々も多いかもしれません。充実した一年だったという方々にとっても、そろそろ年末の大掃除とともに、心身の疲れも一掃したい頃ではないでしょうか。一年を振り返り、生活を見直しながら、新年に向けて心と身体のリセットを試みたいものです。

疲れやストレスを軽減し、リフレッシュする最も効果的な方法は睡眠です。眠りは命の総合メンテナンスをし、細胞を修復してエネルギーチャージしてくれます。また睡眠中にはアルツハイマーの原因物質の一つ「アミロイドβ」などの脳の老廃物を効率よく分解・除去し、心身の自動掃除の役割も果たします。美味しいもの、楽しい事、運動などでも心洗われますが、眠りは費用を掛けず、心身のリフレッシュをしてくれます。一年を振り返り、新年に向けて日々の生活時間の中でぜひ睡眠の優先順位を上げてみませんか。

効率の良い睡眠とは

講演などでは「効果的な良い睡眠とはどのような睡眠ですか」と、聞かれます。先日も中学生対象の講演後の質問で「睡眠は時間ですか、それとも質ですか」と聞かれました。一昔前は時間だけを重視する傾向がありましたが、近年は時間も質も、さらには疲労回復感や休養感も重視されるようになり、私は「どっちもです」と回答させて頂きます。

まずは年齢や発達段階に応じた睡眠時間を確保する事、そして深い眠りや夢を見るREM(レム)睡眠も重要です。時間は自分でも把握できるのですが、質は脳波やデバイスなどで客観的な測定をしないと把握しにくいですが、バロメーターとしては昼間に我慢できない眠気があるかどうかで確かめます。時間的には足りていても、質に問題がある場合は日中に我慢できない眠気が頻繁に起こり、勉強や仕事、活動に支障が出てきます。

また最近の睡眠研究では睡眠時間や質だけでなく、「睡眠休養感」が重要であることが分ってきました。朝起きた時に「疲れがとれている」と感じられるかどうかです。成人では毎日6時間を下回る睡眠では疲労休養感が得にくいことが分っています。自分は眠れているつもりでも、自覚的な評価と測定機器で記録する客観的評価の間に乖離(ズレ)がある場合には健康を害するリスクが高まります。 

年代別の睡眠チェックポイント

20代~64歳
具体的には、働き盛りの20代から40代に多い傾向がありますが、忙しいことなどを理由に「自分は睡眠時間が4,5時間でも足りている」とか、時には「ショートスリーパーだ」と思い込んでいる人は過大評価して、知らず知らずのうちに睡眠不足が慢性化し、症状が出てきた時には過労死や突然死のリスクが高まる事があります。
ちなみに、40~64歳の若い層では、1日5時間半未満の睡眠時間と休養感が無い場合は死亡リスクが1.54倍になるそうです。7時間近く眠れて休養感があれば死亡リスクは0.55倍と下がるので、あと30~60分多く眠ることを推奨します。

65歳以上
反対に、高齢者に多いのですが「若い時のように朝まで爆睡できず、夜中に何度も目が覚めて眠れない」と言う方も。若い時を基準に考えると眠れないという過小評価になりがですが、意外に眠れている方や、昼間のうたた寝が多く夜眠れない方もあります。
高齢者は活動量や代謝も低下しがちで、必要睡眠量も若者より少なくなるので、若い時と比較し過ぎると、不安から本当の不眠症やうつ症状に陥ることもあります。そこで最近は現役世代と高齢者への睡眠改善方法を分けてアドヴァイスしています。65歳以上の高齢者の場合は、8時間以上横になっていても休養感が無い場合、1.57倍の死亡リスクとなります。長時間横になっていると不活発になり、眠りが浅くなって、健康を損ねる可能性が指摘されています。7時間ほど横になり休養感があれば良いことが分っています。

睡眠休養感が不足すると

休養感が得られない睡眠は、うつや高血圧のリスクが高まり、入眠困難や深い眠りの減少、夢を見るREM睡眠も減少して睡眠の質が低下し、日中に居眠りして夜の睡眠の質が低下するという悪循環を繰り返します。
年末年始のお休みの間に遅寝遅起きにならないよう、規則的な睡眠を適切な環境で取るように家族で見直し、家族そろって元気な一年の始まりをお迎えください。

2024年2月に厚生労働省は10年ぶりに「睡眠指針」を改訂し、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を策定しました。ガイドには年代別にこれまでの研究結果や、日々の生活の中で注意したい具体的な内容が記載されています。新しい年の始まり、夢枕や初夢にワクワクしながら眠るのも素敵ですが、睡眠に対して課題を感じている方は、ガイドを参考に何か一つでも生活に取り入れられそうな改善点を見つけてみるのも良いかもしれません。

冒頭に述べた通り、眠りは費用を掛けずに心身のリフレッシュをしてくれます。新年に向けて、日々の生活時間の中でぜひ睡眠の優先順位を上げていただければと思います。

参考:
厚生労働省/健康づくりのための睡眠ガイド2023

 

年代別のガイド(厚生労働省)
・Good Sleepガイド(ぐっすりガイド)成人版(両面印刷・三つ折り)
・Good Sleepガイド(ぐっすりガイド)こども版(両面印刷・三つ折り)
・Good Sleepガイド(ぐっすりガイド)高齢者版(両面印刷・三つ折り)

今日から実践できる睡眠改善方法

睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。
昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。

 

睡眠の質を改善するための生活習慣改善の取り組みアンケート

.

すいみん・かるた

家族や職場で睡眠を改善したい方のために「すいみん・かるた」(dreams come true=良い眠りは人生の夢を実現する)を作成しています。お正月はもちろん、お子様との学びの場でぜひご活用ください。大人にとっても学びのある内容になっています。

すいみん・かるたの詳細

 

睡眠環境と習慣を学びたい方におすすめ

【PR】睡眠環境と睡眠習慣を体系的に学びたい方、知識はあってもなかなか実践できないという方には、エムール睡眠・生活研究所(所長:神川康子)と通信教育のユーキャンが共同開発した『睡眠セルフマネジメント講座』がおすすめです。テキストで睡眠のしくみや、睡眠の質を高める実践法などの知識を身につけながら、副教材やアプリで睡眠のくせを見える化!2つの学習を進めていくことで資格取得と快眠習慣の定着、両方を目指せます。

睡眠セルフマネジメント講座の詳細

.

いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。

執筆者/監修
Author

神川 康子

富山大学 名誉教授 博士(学術) 。一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。40年以上に渡り、睡眠研究を行う。年間50回を超える講演を通して、睡眠教育の啓発に尽力。睡眠環境学入門ほか寄稿多数。