専門家に聞く”人生のターニングポイントに合わせた睡眠教育”【快眠コラム】
2024年10月28日
神川 康子
空前の睡眠ブームの裏には
エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。
「眠りは自然に訪れるもの」という考えは、現代では通用しなくなっているようです。
情報番組でも頻繁に「深い睡眠をとるには」とか「寝つきを良くするには」などがテーマになり、CMでも寝具や睡眠をサポートするドリンク剤、サプリメントなどが次々に紹介されています。
眠気を解消して元気に活動するためのドリンク剤を進めていた企業も「心地よい睡眠に誘うために」や「爽やかな朝が迎えられる」と謳い、眠りを誘う錠剤やドリンク剤を進めていたりします。
もしかすると今が「空前の睡眠ブーム」といってもいいかもしれません。
つまり、現代は本来、自然に訪れる睡眠が「眠りたいときに眠れない」、「寝ても疲れがとれない」、「寝てはいけないという時に寝てしまう」という、人知を超えて制御しにくい行動になってきているのかもしれません。
眠らない先進国、日本
現代文明が進展してきた中で、夜更かしが進み、夜間でも仕事も遊びも自由自在、「寝る時間がもったいない」という「24時間戦えますか」(かつてのCM)というような精神や根性を未だに美徳と考えているのか、睡眠の重要性を知らないまま数十年が過ぎて、日本はあっという間に眠らない先進国となり、睡眠不足(睡眠負債)による経済損失が年間15兆円を超え、OECD諸国でワーストになっています。
ほっといたら眠らない、そしてコロナも体験し、働き方も多様になり、いつの間にか自然の眠りを失って、眠れなくなっている日本においてこそ、早い段階からの「睡眠教育」が重要だと、50年あまり眠りの研究を続けて来て実感しています。私は年間60回前後、睡眠を科学的に理解して頂くための講演に出かけるのですが、「睡眠は命の源」だと実感された方から「学校教育でしっかり教えるべきだ」という声を頂きます。まさに国語、理科・算数…のように「睡眠科」という科目を設けた方が良いとさえ思えてきます。大学では「睡眠学」という科目が設置され、90分の講義を15回実施しても話は尽きませんでした。
睡眠教育はいつ必要か?
理想を言えば、義務教育や従業員の健康管理などの仕組みの中で睡眠教育が実践されることが望まれますが、厳密な仕組みがない以上、親が子に、教育者が児童生徒に、経営者が従業員に自発的かつ効果的に実施していく必要があると思います。とは言え、いつどのような内容で睡眠教育を実施すれば効果的かわからないという方も多いと思います。
そこで、長年に渡って睡眠研究・睡眠教育に関わって来た立場から提案させて頂いているのが「せめて人の一生のターニングポイントに合わせて睡眠教育を行っていくことが、心身の健康改善やパフォーマンス向上、企業の健康経営、健康寿命延伸のために必要ではないか」ということです。この重要なターニングポイントは人生において8回あります。
8つのターニングポイント
- これから親になる世代や妊娠中の夫婦(親の睡眠が胎児に影響)
- 子どもが乳幼児期の保護者や保育者(子どもの心身の成長に重大な影響)
- 小学生になる前に小1プロブレム予防のため(睡眠・生活習慣の調整が必要)
- 小学生3,4年生から乱れがちな睡眠・生活リズムの見直し(就寝・起床時刻の重要性)
- 中一ギャップ予防や思春期の精神的な健康を維持するため(夜更かしで学業、パフォーマンス、人間関係低下傾向、および問題行動の予防)
- 受験期を迎える高校生や一人暮らしでセルフマネジメントが学業継続に影響する大学生(学習意欲、学業継続のために)
- 20代~40代の社会人(個人の健康管理と組織の健康経営のためにと女性の睡眠生理や環境の変化への理解)
- 退職期や高齢期(眠れる時間は出来ても加齢により睡眠の質が低下、うつ予防)
終わりに
これまでの様々な世代の睡眠を調査・実験してきた結果を整理する中で、眠りが変わるターニングポイントがあることがわかってきました。また、自らも高齢期に入り「(時間的には)ゆとりができて眠れるはずなのに(質的には)中途覚醒が増えて眠れない」という体験をし、眠りで悩む方々の悩みや不安が良く分かりました。
このように、多様な人々の暮らしの中の「睡眠」に寄り添ってきたことを、この度、公益財団法人神経研究所睡眠健康推進機構より認めて頂き、機構長賞を頂くことができました。今後もさらに日常生活の中の「眠る」「休む」を研究し、人の生涯の生活や睡眠の質向上を目指して、研究を続けて行こうという力を頂けました。これまで研究生活に関わって下さった多くの方々に感謝の気持ちでいっぱいです。この場を借りて感謝申し上げます。
今日から実践できる睡眠改善方法
早速睡眠教育を実施してみようという教育者の方、保護者の皆様、企業内の人事や健康管理を担当されている方、ぜひ下記のURLから「睡眠を改善する生活習慣15項目」に答えてみて参考にしてください。
昨年までの睡眠研究で、この15項目から3つを選んで2週間チャレンジして下さると、61%の方で睡眠が改善したという結果になりました。残りの39%に入りそうな方はもうあと2項目を加えてみて下さい。
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家族や職場で睡眠を改善したい方のために「すいみん・かるた」(dreams come true=良い眠りは人生の夢を実現する)を作成しています。
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いずれもリンクフリーです。ぜひ睡眠教育の実践にお役立ていただければと存じます。