【快眠コラム】夏休みと睡眠リズム

2024年7月30日

神川 康子

リズムの変化が起きやすい夏休み

エムール睡眠・生活研究所の所長で富山大学名誉教授の神川と申します。

子ども達は夏休みに入り、どんな生活をしているのでしょうか。親が仕事に出かけた後も遅くまで寝ていたり、とくに予定が無いことをいいことに、ゲーム三昧になっていないでしょうか。一方で、夏休みも部活に、塾に、習い事にと、登校していた時以上に忙しく、自由な時間がないという子もいるかもしれません。

老若男女の誰にでも平等な自分の24時間をどう過ごしたかは、結局自分に返って来るのです。朝遅くまで寝ていると、午前中にできるはずだった宿題や課題が持ち越されてだんだん溜まっていたり、夜遅くまでゲームなどで起きていると、翌日が何もしたくないほど体調が悪く、ぼーっと過ごしたりと言うように。

そこで、後から後悔することが無いように、長い休みの後に学校に行きたくないよ!とならないように、私が長年に渡って研究してきた健やかな成長のための睡眠生活習慣に関して、最低限気を付けたいことをお伝えしたいと思います。夏休み入ったばかりで、まだ間に合いますので、健やかな成長と真の学力(学習意欲やチャレンジ精神)が順調に伸びていくよう、ぜひご家族で実践してみてください。

リズムの乱れは9月の不調の始まり

子ども達には、発達段階(年齢)に応じて、眠ってほしい時間(小学生9時間以上、中・高生8時間以上)があります。それから、どんな時間帯(もちろん夜)に眠るのが良いかも大切です。

これまでの研究の結果、夏休みになっても学校がある時と同じ時刻に眠り、同じ時刻に起きることを強くおすすめします。夏休みに入り、急に夜更かし・朝寝坊のように生活時刻がズレてしまうと、生体リズムが乱れてしまいます。夏休みの間に乱れた生体リズムのまま、9月の新学期を迎えると、始業式の朝、なんとか無理やり起きることが出来て学校に行っても、日が経つにつれて寝不足が蓄積し、学校で「頭痛」「腹痛」「体調不良」などを訴えることになってしまいます。さらに乱れた生体リズムはもとに戻るまで時間がかかるため、「不調」が1か月以上も続くことになってしまいます。これでは、そのうち学校に行きたくない、何もしたくないという無気力な気持ちに陥りやすくなってしまいます。

夏休みの間に乱れてしまったリズムを夏休み明けに戻そうとすると、生体リズム(体内時計)は1週間に5~10分ほどしか戻らないので、完全に戻るまで1か月以上もの期間が必要になります。しばらく体調不良のまま学校に通うか、学校に行くのをやめるか(不登校)という選択にもなりかねません。夜更かし・朝寝坊は容易でも、リズムを戻すのはとても大変ということです。ちなみにこれは子どもに限らず、大人でも同様です。

脳を育てる就寝時刻と起床時刻

20223月に年少から小学校6年生までの9学年の保護者を対象に行ったWeb調査をした結果を分析し、「昼間の生活に影響するのは就寝時刻なのか起床時刻なのか」を調べました。

年長の頃からほとんどの学年で就寝時刻が早いほど体や心の状態が良く、スクリーンタイムも短くて、食事や運動習慣も良いという結果になりました。育ちや学ぶ力も同様で就寝時刻が早いほど、物事をよく考え、最後までやり遂げたり、人と協力したり、自分の事を自分でできたりする傾向が見られました。

起床時刻は、4年生以上の高学年になるほど、様々な生活習慣や育ち・学びの力と関連が強くなることから、小学校4年生頃からは一層、夏休み中に夜更かし朝寝坊にならないように心がけることが、気持ちの良い休み明けを迎えるためにも重要であることが分りました。

また、小学生になって最初の夏休みを迎える1年生も起床時刻は育ちや学ぶ力にとても影響することが分り、しっかり起床して興味のあることを調べたり、自然観察をしたり、目標をもって物事に取り組み最後までやり遂げる体験をして、自己肯定感を高めていくことが大切だということが分かりました。

家族で目指す10の目標

このように、124時間の中で成長の土台となる「脳」を育てる睡眠の時間やリズムを最優先することで、食事、運動、学習、家族や友達とのコミュニケーションなどの昼間の時間が有意義なものになる事をぜひ、理解して実行して頂きたいと思います。

大切な事を家族と共有できればと、次のような10の目標を整理してみました。できることから1つずつでも、皆さんで取り組んでいただければ幸いです。

  1. 仕事や学校があってもなくても、「寝る、起きる、食べる、運動する」生活リズムのズレは、子供1時間以内、大人2時間以内をめざしましょう
  2. 朝起きたら窓の外の天気を確認し、体内時計のリセットと空気の入れ替えも忘れずに
  3. 朝ごはんは1日のエネルギーの源、しっかり食べましょう
  4. 昼間の活動には優先順位をつけて行い、明日できる事は明日にまわす勇気も必要
  5. 散歩、食事、家事、会話など、家族で一緒にできる事を一つ見つけましょう
  6. 入浴はシャワーで済ませず湯船に15分位浸かってリラックスすると眠りが改善できます
  7. 寄る寝る1時間前までにはパソコンやスマホなどの液晶画面を注視するのは控え、音楽や読書、ストレッチなど、一人ひとりの好きなことでリラックスしましょう
  8. 夜寝る1時間前にはささやかな事で良いので明日の楽しみな事を一つ思い浮かべましょう
  9. 就寝中は部屋を暗く静かにし、温湿度もエアコンを使って快適にしましょう
  10. 家族が一緒に過ごす時間と、一人ひとりが自分の過ごしたい時間を持てるように、家事を分担するなどお互いに思いやりをもって心地よい距離を見つけましょう


 

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アンケートご協力のお願い

本記事の著者であり、エムールの睡眠・生活研究所の所長でもある神川康子から、アンケートのご協力のお願いです。
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睡眠の質を改善するための生活習慣改善の取り組みアンケート

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執筆者/監修
Author

神川 康子

富山大学 名誉教授 博士(学術) 。一般社団法人日本睡眠改善協議会理事。日本眠育協議会理事。富山県公安委員会委員。富山県社会福祉協議会理事。40年以上に渡り、睡眠研究を行う。年間50回を超える講演を通して、睡眠教育の啓発に尽力。睡眠環境学入門ほか寄稿多数。